不動産の正しい知識とは?

「ごめん。私、おやじ顔の男って、まったくダメだから」
女にふられた次の日の朝、私は家の前で真っ青なバケツを拾った。その日の朝の皮肉なほどの晴天の空に皮肉なほどに似た色のプラスティックの安物の小さなバケツ。横には黄色の象が描かれていた。
そっと拾って見つめることで、私は、そのバケツが、まだ、真新しいことを知った。バケツは明らかに子供の玩具なのだが、そこには、まだ、砂さえ入れられた様子がないのだ。しかし、値札のシールのようなものもない。子供がそれを買って、意気揚々と遊びに出掛け、その途中で落としたか忘れたのだろうか。それにしても、この近所に公園のようなものがあっただろうか、と、そんなことを思いながら、いったん、家の中にもどった。そのまま放置してしまうと、風がバケツを転がして、車に轢かれる可能性がある。それがトラックなら木っ端微塵だ。
冷蔵庫からペットボトルのコーラを出した。それを一口飲んで残りを流しに捨てた。コーラの一気飲みが出来るほど、もう、私は若くない。今年で四十歳になるのだ。
空になったペットボトルを軽く洗い、中に水を入れた。ペットボトルの蓋はせずに、それをバケツに入れて玄関の前にそっと戻した。子供が探してに来れば見つけられるはずだ。水の重さで風には飛ばされない。蓋がなければ、ペットボトルは重し替わりだと分かってもらえるのではないだろうか、と、そう考えたのだ。
それだけの作業で汗をかいた。やはり若くない。早くに死に別れた両親が残した家。その家を出て私は、電車で二駅向こうの駄菓子屋に向かう。そちらも両親が残した店なのだ。
私の父は駄菓子屋をやっていたわけではない。母も駄菓子屋をやりたいような人ではなかった。ただ、不動産投機目的で店舗付きの家屋を買っただけだった。そして、せっかく近所の子供たちの楽しみ場である駄菓子屋を早々に閉めてしまうのも可哀想だという理由で母が細々と店を続けていただけだった。

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